資料館のかたな⑤無銘刀
中央市豊富郷土資料館です。
当館は地元の方から寄贈された日本刀も展示しています。
今回も常設展示コーナーにある刀をご紹介します。
今回はこちらの無銘刀を紹介します。
この刀には銘が入っていません。
おそらく江戸時代以降の刀と思われます。
刀身がぐいっと削ってあります。これは樋(ひ)と言い、装飾のため、また刀身を軽量化するためにも彫られます。
本刀は一本だけですが、刀によっては細い樋が二本平行に入っている事もあります。
また樋の中に彫刻がされている事もあります。
彫刻は仏教的なものが彫られることが多いです。特に密教に関わるような梵字、剣、龍などは数多く彫られています。
刀身彫刻は刀鍛冶が自ら彫ることもあるし、専門の職人がいる場合もあります。中世後期の備前長船では、異なる銘の刀にほぼ同じ彫刻が施されていることがあり、分業体制があったこともうかがえます。
彫りこむと当然の事ながら刀身は脆くなります。場所によっては1ミリ以下の厚さになることもあるそうです。すると贈答品や守り刀など、実際に斬撃の用途ではない品に彫ることが多かったのでは。
さて、無銘の刀は意外と多くあります。無銘だから価値が低いとは限らず、たとえば有名な正宗もなかなか銘を彫らない刀工の一人です。また、もともと銘があったのが、摺り上げ(刀の寸法を短くするために茎を切ること)で銘が切れてしまった事もあります。
とはいえ銘がないと誰の刀か分かりにくいので、摺り上げの際には銘を残すこともあります。当館の脇指・守重はもとの銘を折り返して残しています。もともと無銘だった場合は、本阿弥家など鑑定の専門家が鑑定書をつけていたり、茎の部分に漆で鑑定結果を書いてあったりする物もあります。
これは逆のパターンもあり、当初は単なる無銘刀だったのが、悪意ある後世の人が適当な銘を彫ってしまった事で、贋作刀になってしまった無銘刀もあります。
贋作というと当初から悪意を持って作ったものと思いがちですが、日本刀は手入れさえすれば代々何百年も伝えられるので、途中で改変される事も少なくなく、その辺の事情が多少込み入っています。