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2024年のおかいこ(アシザワ養蚕さんの蚕)

中央市豊富郷土資料館です。
今年も蚕の飼育を行いました。先日、無事に採卵まで終了したので、その様子をご報告します。


蚕がやってきた!

7月20日、資料館にアシザワ養蚕さんの蚕がやってきました。

今年もいらっしゃい、これからよろしくおねがいします…

当初は60頭ほど頂く予定でしたが、資料館蚕が半減してしまったので、急遽多めに頂くことになりました。毎年ありがとうございます。

やってきた蚕は2齢から3齢になる眠の途中。

白い粉は乾燥用の石灰です。下の網がおおよそ1㎝四方なので、長さ2㎝ほどの蚕たちです。

やって来た日の夕方にかけて脱皮が進み、順調に桑の葉を食べ始めました。

順調に成長!

1週間もたつ頃にはこんなに大きくなりました。

じゃーん
3齢から4齢の蚕たち。あっという間に大きくなります。

成長するにつれ、蚕籠もだんだん窮屈になってきました。上のほうにいる蚕は新しい桑葉にすぐたどり着けて、モリモリ食べて大きくなるのに比べて、下の方に行ってしまう蚕たちはなかなか新しい桑葉に気付かない様子。だんだん、蚕の間でも成長にばらつきが出てきました。

今年は「出張かいこ」も

そこで今年は、一部の蚕を隣の温泉施設「シルクふれんどりぃ」のロビーに置いていただくことにしました。

温泉利用や合宿などの皆様に楽しんでいただけました

今年の七月にリニューアルオープンした「シルクふれんどりぃ」は、合宿や温泉の利用客が多く、資料館より遅くまで開いています。そのため、より多くの方に生の蚕に接してもらえるのでは…と、厳選した元気な蚕たちを特使に任命し、「シルクふれんどりぃ」のロビーに出張です。
スタッフさんの中には養蚕経験がある方もいて、こちらも快適な環境で順調に育ちました。

上蔟

まず糸を吐きはじめたのは「シルクふれんどりぃ」にいた蚕です。
8月3日、桑葉を交換しに行ったら、色が変わった蚕がいるのに気が付きました。全身が飴色に透き通っていて、頭をふりながら活発に動いています。
「これは上蔟だ!」と回転蔟を持ち込みました。

間もなく、資料館の蚕たちも繭を作り始めました。

8月17日の様子。一生懸命繭をつくっています。

今年は生育にバラツキがあったので、一斉に上蔟とはいきませんでした。一部は蔟に乗せることができたものの、下の方に潜り込んでいた蚕たちは、そのまま桑の葉の中で繭を作っていました。また、今年はやや小さめな蚕が多かったからか、2頭以上が同じ部屋に入って繭を作っている様子もちらほら見られました。

繭ができてから数日で、中の蚕は最後の脱皮をして蛹になります。それを待たずに乾繭をすると、蚕の死骸が溶けだして繭が汚れてしまいます。そのため乾繭は、全てが蛹になったタイミングで行うのがベストなのですが、昨年まではなかなかうまくタイミングがはかれず、先に繭になった蚕が羽化してしまう事態が発生していました。

そこで今年は、大量にある蔟を使い、日ごとに蔟を分けることにしました。

本来であれば、回転するように専用の木枠に取りつけて、そこに熟蚕をたけて使用します。
ただ、昨年・一昨年の経験からいうと、蚕が百頭程度だと、それぞれがまんべんなく繭を作って、回転することのメリットがあまりないようです。
今年は、本来の使い方ではないのですが、藁蔟のように平らに開いて蚕の上に置き、蚕が自然に登ってきて繭を作れるようにしました。

それぞれ繭を作って一週間ほどで、炎天下に3日間干して羽化を止め、繭を乾燥させました。幸い今年も40度近い猛暑日が続き、乾繭作業がはかどります。

敷地内で一番暑い場所に干します。

今年の繭たちです。

今年もたくさんとれました。

切断した繭が18粒、玉繭が8粒、変形したり汚れたりしている繭が40粒、綺麗な繭は87粒の合計153粒とれました。
案の定、玉繭(2頭以上の蚕が一緒に作った繭)が多くとれました。通常は2~3%と言われていますが、今年は5%ほどが玉繭でした。

これらの繭は資料館の工作や体験活動に活用させていただきます!

羽化と採卵

いっぽう、来年ふ化させる卵もとるべく、一部を羽化させることにしました。
そのまま羽化させると繭が汚れるので、あらかじめ繭を切って蛹を取り出しておきます。

8月10日、18粒の繭を切ってスタンバイです。

羽化すべく選ばれた蛹たちです。雑然と置かれているように見えますが、実は蛹も自力で動くことができます。ついさっき写真撮影用に並べていたのが、パっと見たらこのありさま…。

蛹になると、サイズと尻の模様で雌雄がわかります。
サイズが小さめなのが雄、大きめなのが雌。
尻のシワが〓なのが雄、Xになっているのが雌。

こちら雄のさなぎ(写真は2023年の蚕のものです)
こちら雌のさなぎ。尻のシワがXになっているのが何となく見えるでしょうか。(写真は2023年の蚕のものです)

全て羽化すると、雄10頭、雌8頭になる見込みです。

先に羽化したのが雄でした。8月15日に最初の雄が羽化し、以降雄が13頭羽化しました。

大きさは3㎝ほどです。

そして雌が6頭羽化。総数が増えているのは、乾繭しそこねた繭から1頭羽化したから…。

8月24日にかけて交尾し、6頭の雌すべてが卵を産みました。

交尾の様子

産卵に集中できるように、雌は雄と離れたケース内の個室に入れます。

卵どうしが重ならないように、尻の先で場所を探しながら、円を描くように卵をうみます。

卵は、産み始めは黄色ですが、数日たつと色が変わるものがあります。黒っぽくなるのが「休眠卵」で、いったん寒い環境に身を置かないとふ化しない卵。黄色いままなのが、受精していないか、すぐふ化する「非休眠卵」。今回はこの「休眠卵」を、来年の夏まで保存します。

8月27日に回収した卵たちです。
しっかり産んでくれました。

今年もたっぷり卵をとることができました。

昨年は密閉しすぎて失敗したので、今年は①封筒の中に入れて冷蔵庫に保管するものと②ビニール袋に入れて軽く封をする程度で冷蔵庫に保管するものの2つに分けました。来年はそれぞれふ化させて、どのような状態で保管するのが卵に最適なのか観察を続けます。

今年は2パターンで保存。来年の夏までしばしのお別れです。

資料館でふ化した蚕の記録はこちら。

また、今年の飼育記録は、2025年夏のミニ企画展「2024年のおかいこ」でも展示する予定です。その時期にはまた蚕の飼育をする予定です。お近くをお通りの際は蚕たちに会いに来てください!